キハラハント愛の世界漂流徒然日記

国連平和維持活動、国際人権法、国際人道法、法の支配、治安部門改革の分野で活動するキハラハント愛のブログです。

人権

COVID-19対応は人権の視点を中心に

コロナウィルスに対応する諸対策が各国で講じられる中、
人権という価値観をその中核に据える重要性を論じた
下記の拙稿を学生さんが日本語訳してくれました。
https://www.utokyointlaw.com/post/advancing-human-rights-while-fighting-covid-19


COVID-19対応は人権の視点を中心に

 

著者 東京大学准教授 キハラハント愛

編集 Paul Namkoong, Amishi Agrawal

訳 山口真理子

 

グローバル化の波に乗って目まぐるしく変化し続けてきた世界が今、停滞のときを迎えている。COVID-19が世界中に広まるなか、もちろん各国は種々の対策を講じてきた。ある面では、筆者はこの国際的な関心と報道の集中を、少し冷めた気持ちで観察している。つまり、この問題が世界的な関心事項となったのは、難民危機と同様、政治的に影響力のある国々にも影響が浸透したからなのではないかと感じることを禁じ得ない。他方で、この問題に対してかなりの情熱を感じる自分もいる。なぜなら、この問題は、人権が新旧の対策の指針となる機会を提供し、すべての関係者が、脆弱な立場にある人々に特別な配慮を払うことを迫るからである。

 

「特別な配慮」とは具体的に何を意味するのか。まず、COVID-19の感染リスクに関しては、高齢者、基礎疾患を持つ人々、妊婦など、特に感染してしまった場合の影響が大きい人々を守るために特別な対策を講じる必要がある。

 

特別の配慮を必要とする人々は数え切れないほどいる。感染リスクの高い人、十分な医療サービスを受けられない人、武力紛争その他の暴力から避難してきた人々、難民、庇護申請者、避難民、ホームレスの人々、外国人労働者および研修生、貧困者などが含まれる。[1] さらに、ウイルスの感染経路の観点から、過密な住居・労働環境にいる人々にも特別な配慮が必要である。つまり、キャンプ内の国内避難民(IDP)、被拘留者(移民施設を含む)、劣悪な労働条件下にある労働者、病院・高齢者や精神障害者のための施設で働く人々や、それらの施設に滞在する人々を含む。国連人権高等弁務官が、拘留施設におけるウイルスの蔓延を防止するために緊急措置を講ずるよう各国政府に訴えたことは、このような考えに沿ったものである。[2]

 

最前線で働いている医療従事者とその家族を守る諸策も重要である。ウィルスから身を守る保護器具の提供や育児支援だけではない。医療従事者が生活に必要な食料や物を効率よく手に入れられるようにする対策なども必要だ。例えば、高齢者向けにスーパーマーケットなどで特別優先時間が割り当てられているところがあるが、これを医療従事者や他の必要性の高いなグループにも適用できる。政府はこれまで、集団感染の回避を国民に訴えることに焦点を当ててきたが、食料品の買い物、薬、食品配達サービスなどは役に立つのではないか。

 

人権が脆弱性の高い特定のグループを守る国の責任を強調している点は知られているが、この考え方が、より包括的な国の政策・社会の在り方の指針となり得る。人権の視点を通して、社会全体がこのパンデミックにどのように取り組むかについて、貴重な洞察も得ることができるのではないかと考える。

 

既存の不平等や差別の実態が、緊急事態においてはより顕著に、緊急性を持って表れる。東アジアの出身者が、ことばや身体的な暴力の被害者になっていることは、すでに多くの国で報告されている。そのような差別は、パンデミックで突然生じたものではなく、多くの場合、長年社会の中に放置されてきた根の深い問題である。もともとあった差別感情が、政府や自治体の対策の中に露呈しただけである。例えば、埼玉県の地方自治体が、マスクを配布する際に韓国国籍の児童が通う学校を除外しようとしたことや、パレスチナ人に対するCOVID-19感染テストの実施率が、他の住民と比較して明らかに低いことなどは、このことを指し示しているのではないだろうか。

 

人権の一つである言論の自由に関する問題も明白になった。武漢における、COVID-19関連の情報発信に対する制限は国家による制限の一例だが、[3]自主規制、つまり社会的圧力または家族・友人・同僚など仲間同士の圧力による情報発信の自粛にも注意する必要がある。情報を求める権利、独立したメディア報道の分野については、東日本大震災の後、大きな課題だと指摘されたことも鑑みて、日本は今回特に注意した方が良い。[4]

 

また、表面には表れにくい問題にも注意が必要である。例えば、「ステイホーム」の要請で、家庭内暴力や児童虐待の被害者や、被害の危険のある人々は、ますます危険な状態に置かれる。外出が制限され、友人・別に住む家族・コミュニティにアクセスできなくなり、家族や同居人が、一緒に過ごす時間が増えるため、家庭内で起こっていることはますます見えにくくなる。被害者が被害の状況を報告して救済を得ようとしても、病院や医療施設が非常事態に対処していて受付を限定していたり業務・移動の制限によって、医療・カウンセリング・支援機関などにアクセスできない場合がある。

 

もう一つ、東京大学の教員として私が提起したいのは、COVID-19による教育のツールの急で大幅な変更に伴う、教育を受ける権利への影響への配慮である。人権法に基づいて考えても、公衆衛生を確保するためという目的は正当性があるため、学校・教育機関の一時的な閉鎖や、オンライン授業への切り替えなどは、即人権法に抵触するものではない。ただし、同じ対策が異なる人々に異なる影響を与えるかもしれないということを常に念頭に置くべきであり、その目的を達成するために必要な最低限の人権の一時的な制限のも許可される。

 

経済的事情、コンピュータの所有の有無、および自宅でのインターネットアクセス状況等については繰り返し議論されてきたが、他にも考慮すべき問題がたくさんある。学生が家庭でどれだけ家事を担っているか、自宅で勉強することが許されていて、実質的に勉強できる環境が整っているか、自宅から授業に参加したのでは率直に話すことのできない問題があるか、何らかの事情で勉強ができない期間があるかどうか、など、幅広い問題を考慮に入れなければならない。

 

さらに、学習形態について検討する必要がある。つまり、学生はオンラインまたその他の方法で効果的に学ぶことができるか、学生はオンライン学習に慣れるのに十分な指導と時間を与えられているか、学生間に、同種・同レベルのコンピュータ使用能力を期待できるか、ワークショップや体験型の学びをどのように補足するか、キャンパスの外で、学生同士の学び合いの機会は十分に提供されているか、といった問題の検討が必要である。

 

前述のように、国家機関は、コロナ対策があらゆる人にもたらす影響に対して敏感でなければならない。教育に関する対策でも、特定の性別や年齢層に特定の問題はあるか、留学生は、彼らが理解できる言語によって、十分で正確な情報にアクセスできているか、聴覚障害者や視覚障害のある学生が、公共サービスを活用できているか、教育機関は、感染した学生に対して勉強に遅れが出ないように十分に配慮しているか、旅行制限や異なるタイムゾーンによる影響を受けている学生への対応はどうなっているか、など、実に様々な問題を考慮しなければならない。

 

すべてのニーズに応えることは容易ではないが、問題を考慮しない正当な言い訳にはならない。鍵は柔軟性である。異なる状況に置かれる異なる学生のニーズと脆弱性を考慮し、協議や話合いに基づく調整をする必要がある。

 

実際、脆弱な立場にある様々な人々との協議は、新しい対策、暫定の対策を決定する鍵となる。すべての人に影響を与える対策について、裕福で権力を持つ層のみが独占的に話し合って決定を下すことは、効果的とは言えない。もちろん、パンデミックの蔓延を防ぐために、対策のなかには迅速な導入を要するものもある。その場合でも、実質的に可能になった時点で、対策に関する意思決定と軌道修正の過程を透明化する必要がある。

 

以上の課題は小さい課題ではないが、これをただ問題と見るのではなく、見落とされてきた既存の問題に取り組む前例のない好機と見なすことができるのではないか。例えば、人種差別や暴力を煽る発言は容認されず、人道法によればこれらは規制されなければならないが、このような認識と対策を、政府が強化する機会にすることもできる。また、育児や介護をしながら仕事をする人の状況を考慮すれば、特に夕刻に対面で行われる会議が本当に必要なのか再考する良い機会となるかもしれない。さらに、今こそ、社会や既存の制度の構造的な不平等を再評価すべき時かもしれない。例えばこれは、教育および研修プログラムを総合的に見直す良い機会である。

 

今あるこの機会は永遠に続くわけではなく、この機会を逃さず行動することが求められる。そうすれば、COVID-19

が収束するころ、我々は今を振り返り、このパンデミックに対する政府の対応のみでなく、様々な人々を社会の中で協力して助け合ったと、我々は前向きに評価できるはずだ。

– – – – –

 

[1] これらの脆弱な立場にある人々の多くは、202035日の国連高等弁務官のプレスリリースでも言及されている。UN OHCHR, ‘Coronavirus: Human rights need to be front and center in response, says Bachelet’, accessible at https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=25668&LangID=E, 6 March 2020, last accessed 27 March 2020.

[2] UN OHCHR, ‘Urgent action needed to prevent COVID-19 “rampaging through places of detention” – Bachelet’ , 25 March 2020, accessible at https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx.

 

[3] Human Rights Watch, ‘Human Rights Dimensions of COVID-19 Response’, 19 March 2020, accessible at https://www.hrw.org/news/2020/03/19/human-rights-dimensions-covid-19-response#_Toc35446579, last accessed 27 March 2020.

 

[4] UN OHCHR, ‘Preliminary observations by the United Nations Special Rapporteur on the right to freedom of opinion and expression, Mr. David Kaye at the end of his visit to Japan (12-19 April 2016)’, 19 April 2016, accessible at https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=19842&LangID=E, last accessed 27 March 2020.

コロナウィルス対策において人権を推進する


コロナウィルスと、それにより引き起こされるCOVID-19に
世界で様々な緊急の対策が取られています。
今回は、所属の東京大学のInternational Law Training and Research Hubに
コロナウィルス対策において人権を推進するという記事を掲載しました。
英語記事です。

教育の場にいて特に思うのは下記の部分です。

One more pertinent issue I would like to raise, as an academic at the University of Tokyo, is the confluence of the right to education with changes in classes due to Covid-19. The closing of schools and educational institutions, along with the switch to online classes, is necessary for public health and is legitimate under Human Rights Law (HRL), as certain rights can be suspended temporarily. HRL stipulates that special measures should remain proportionate to the aim sought, in addition to keeping in mind that the effect of a single measure is invariably experienced differently among various groups.

And while questions of economic status, computer availability, and internet access at home have been repeatedly discussed, there are many other questions worth asking: do students have family obligations at home? Are they allowed to study at home, and is there an enabling environment? Are there issues that they cannot discuss openly at home? Are there time periods when certain groups cannot study?

Moreover, the viability of new forms of learning must be examined. Can students learn as effectively through online or other means? Were they given sufficient instruction and time to get accustomed? Can we expect the same type and level of computer literacy for students? How is the strength of interactive classes and seminars substituted? Are students given sufficient opportunity to learn from their peers while they are off campus?

Again, institutions must account for their policies’ lopsided effects on certain groups. Do different genders or age groups have different difficulties? Do foreign students have access to sufficient and accurate information in the language they understand? Can hearing or visually impaired students make the most of what is provided? Is the institution making sufficient considerations for infected students? What about those who are subject to travel restrictions or in different time zones?

It is definitely not easy to cater to all needs, but that is not a valid reason to hastily brush these questions under the carpet. The key to effective policy involves flexibility – adjustments in consultation and discussion with students need to be on the table.

 

日本の市民的・政治的人権についての書籍が出ました

こちら、恩師である
エセックス大学の人権センター創始者のおひとりであり、
国連人権委員会の議長なども務められた
Sir Nigel Rodleyに捧ぐというサブタイトルを付けた
日本の市民的・政治的人権についての書籍。
編集の高橋ソウルさんに
一緒にこんな本を作りませんか、と
アイディアから、出版社との交渉から、
各章の担当者を考えるところまで、
色々と頑張りました書籍が出ました。

私が担当した章は2章、
沖縄の基地反対運動における機動隊などの対応についての章と、
婚姻・家族における女性差別についての章です。

4月からの東京大学の授業でも使います。
https://www.crcpress.com/Civil-and-Political-Rights-in-Japan-A-Tribute-to-Sir-Nigel-Rodley/Takahashi/p/book/9780815385844

国際テロ対策についてのセミナー 

昨日9月22日
日本国際平和構築協会のセミナーに
山本栄二国際テロ対策・組織犯罪対策協力担当大使がいらっしゃり、
日本の国際テロ対策についてご講演
されました。

セミナー全体については後程
協会のウェブサイトに出ると思いますが、
コメンテーターとしてお呼びいただきましたので
私のコメント部分の要旨だけこちらに出させていただきます。

ーー

東京大学のキハラハント愛准教授は、日本の「対テロ」の構図から見えてくる、想定される「テロリスト」の設定が「外国人で国境を越えて入ってくる特に中東・アフリカのイスラム系の若い人」で、より多様なテロリスト、テロリズム、より多様な不満、国産の不満にも対応できるのか、また、地域的な取り組みはどうなっているかと問うた。次に、根本要因をどうしていくのか、海外に対して暴力を伴わない意見主張と「寛容」を支援することをうたっているが、国内での政策とはどのようにつながるのかと質問した。また、テロ対策と人権について、(1)「テロなど準備罪」への対処としては警察庁は防犯カメラとプロバイダーとの協力という点を出しているが、また、国連安保理決議やアクション・プランから情報を共有する義務を負ったが、これとプライバシーの権利との関係、(2)テロリストに対処するためには平和的な表現の自由をより守る必要があること、(3)国際的なアクションとしても旅行制限や資産凍結などの制裁を課す証拠と判断課程の水準は人権法の規定を満たさないが、国内的にも気を付ける必要があること、(4)一方で特定の民族の優越をうたったり他の民族・宗教を攻撃する、ヘイトスピーチを含む表現は取り締まる必要があること、を指摘した。


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4月 戦火のシリア・ピアニスト招聘 シンポジウム・コンサート

前記事のシリア国際法セミナーを共同主催している
Stand with Syria Japan (SSJ) という学生主導のNPOが、
戦火のシリアでピアノを焼かれるまでピアノを弾き続け、
ベートーベン人権賞を受賞した
エイハムさんを招聘し、
4月にシンポジウムとコンサートを企画しています。

SSJは、私の大学院の国際人権法や国際法と「人間の安全保障」の授業を
履修していた修士の学生さんである山田一竹(いっちく)さんが
シリアの惨状に心を痛め、
設立した学生主導のNPOです。
学生であるとか、コネクションがないとか、
そのような言い訳をせず、
シリアの市民の惨状を
一人でも多くの人に届けようというまっすぐな気持ちに
私は人権侵害・蹂躙の惨状は嫌というほど見てきたと思っていましたが、
正直感動しました。
世界の大国が動かない・動けない中、
一人の人がこれだけの熱意で他の人を動かせるというのなら、
世界も捨てたものではない、と思います。

そのNPO,SSJが、
この大イベントを実現させるために
クラウド・ファンディングを開始しています。

私も全力で応援しております。
応援してくださる方は、
下記からお願いいたします。

https://readyfor.jp/projects/StandwithSyriaJapan2018
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