1月25日、ノルウェーのオスロで開催された、
東ティモール受容真実和解委員会の報告書英語版出版記念式典に
招待していただいて行って来ました。
この報告書、再び読んでみましたが、
とても包括的で、前進的で、すばらしい報告書です。
10年以上前に、同委員会を設立するための委員会の
広報を担当しておりましたが、
このような報告書が発表され、
今またオスロで報告書について討論する会議が開かれるということは
素晴らしいことですね。
この出版記念式典は、
ノルウェーの第一王子が開会し、
ノーベル賞受賞者である、ラモスホルタ氏とベロ司教を初め、
移行期の正義の第一人者、
東ティモールの住民投票から独立、
それからの成長に関わる錚錚たる人たちが集まり、
非常に学ぶことが多くありました。
東ティモールで起きた大規模な人権侵害の被害者たちは、
いつになったら一息つけるのでしょうか。
以下、私が書きました、出版記念会の非公認の報告書の
日本語仮訳です。
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東ティモール受容真実和解委員会(CAVR)報告書Chega! 英語版 欧州発表記念式典
2016年1月25日 オスロ・ノーベル平和センター
式典の初めに、ノルウェー平和構築リソース・センター(NOREF)長のMariano Aquirre氏とGunnar Johan Stålsett司教が参加者を歓迎し、共に東ティモール受容真実和解委員会の功績と東ティモールの人々が見せた復興に向かう力を祝福しようと述べた。
開会式では、ノルウェーのHaakon皇太子殿下が、Chega!報告書は、社会の和解と変革のプロセスと課題を明らかにし、世界がその経験から学べると紹介した。平和、発展と人権は相互補完関係になければならないことの証でもあるとした。続いて、国連開発計画(UNDP)親善大使として東ティモールを訪問した際のビデオを上映した。ノルウェー外務省のTore Hattrem副大臣は、Chega!報告書はこの種の報告書の中で最も重要なものであり、被害者の尊厳を理解・回復する必要性を示し、新しい国家を建設し、重大な国際法違反を繰り返さないために書かれたものであるので、この報告書を広く知らしめることが重要だと述べた。ノーベル賞受賞者であり、東ティモール前大統領、元総理大臣、元外務大臣のJose Ramos-Horta氏は、Chega!報告書は被害者を称え、集合的で統一した癒しの道を提示するものとして重要であるとする一方、東ティモールの指導者たちが、国際社会からの継続的な支援を受けて、インドネシアと共に明るい未来を築いていく責任があると強調した。権力の座にいる人々は、負け側を包含する勇気を持っていなければならない。
「東ティモール―植民地から独立まで」と題された第一討論会では、在インドネシアStig Traavikノルウェー大使(東ティモール・ASEANノルウェー大使兼任)が議長を務めた。まずGlobal Prioritiesの国際コーディネーターArnold Kohen氏が、東ティモール独立までの歴史を話した。ポルトガルの管理下では、弾圧、人々が栄養失調にかかるなど、問題があったが、ポルトガル語は後に東ティモール人の対インドネシア独立運動に使われた。1991年のサンタ・クルーズ事件と、1996年の2つのノーベル賞授与によって、国際社会は東ティモールの問題を無視できなくなった。大使は、数々の困難を乗り越えて新国家を前進させているティモールの指導者たちを賞賛した。ノーベル賞受賞者のCarlos Filipe Ximenes Antonio Belo司教は、東ティモールの一般市民の声を忘れないよう、一層の努力が必要であると述べた。人道に対する罪に対して、正義はまだ全うされておらず、されなければならない。司教はまた、貧しい人たちに正義が届けられる必要性について強調した。東ティモール人事委員会のMaria Olandina Isabel Caeiro Alves委員は、女性が独立運動の中で果たした役割と、結果女性たちが直面してきた様々な困難について話した。一方、その歴史の中で女性たちは生存に必要な技術、リーダーシップと愛国心を身につけた。現在ティモールの女性たちは、世界・地域の発展に大いに貢献している。もと東ティモール大統領付参謀長のFidelis Manuel Leite Magalhães氏は、国家建設に若者たちを従事させる際に直面した困難について、事前に中央で決められた開発企画の枠組み、政党による若者たちの分断、政府の弱小なサービス供給能力、人々の毎日の生活に影響を与え続ける過去の恐怖、人々の過度な期待、責任の伴わない権利の主張、民間セクターより弱小で資源の少ない政府、など、様々な要素があったと発表した。同氏は、新国家建設に若者たちが有意義な形で従事することと、多政党の民主主義を確保することは必須であるとした。
第二討論会「真実・正義と和解 -国民的合意に向けて」は、Stålsett司教が議長を務めた。司教は、「受容」とは相互扶助に基づき、対話を通じての移行期の正義と和解についての国民的合意に支えられる概念であると説明した。また、司教は、早期にimpunity(刑事的不処罰)の問題を追及し、正式な正義を求め、被害者に賠償を行うことの重要性を強調した。Asia Justice and Rights (AJAR)顧問で、もとCAVRとCAVR後技術事務局顧問のPat Walsh氏は、真実と和解は正義なしには全うし得ないというCAVRの立場を紹介し、この立場は当時東ティモールの指導者たちと、インドネシア・東ティモール真実友好委員会(CTF)にも支持されたと述べた。CAVRの報告書は人権報告書であり、文民の被害者たちの物語であり、前向きな国家建設のために使われるべきである。インドネシアの人々は、報告書の提供する決定的な真実を知るべきであり、人道に対する罪と戦争犯罪についての裁判、被害者への賠償という2つの形の正義が遂行されるべきである。AJARディレクターで、もとCAVR事務局のGaluh Wandita女史は、加害者たちがインドネシアで17年以上にわたり不処罰の状態を享受してきたかを示した。Chega!報告書の影響は、今のところ主に市民社会セクターに限られている。AJARの研究によると、過去の人権侵害はトラウマ、差別と苦難のサイクル、サービスへのアクセス制限など、数々の悪影響を女性たちに与え続けている。ただし、司法へのアクセスは、インドネシア、ミャンマーと比べ、東ティモールの方が良いということが分かった。女史は、「盗まれた子供たち」(インドネシア占領中に、強制的にインドネシアに連れて行かれた東ティモール人の子どもたち)の問題について、彼らのアイデンティティの問題は継続していると発表した。これに対し、Ramos-Horta氏は、アカウンタビリティを追及しない国は民主主義や国家の安定を実現できないという概念に疑問を投じた。過去が未来に影を落とさないようにしなければならず、インドネシアの正義はインドネシアが自らのタイミングで全うするのが良いとした。Chega!報告書は、将来の戦争を防ぐ素晴らしい反面教師である。
コロンビア和平プロセスへのノルウェー政府特使、Dag Nylander氏が、第三討論会「移行期の正義はどれだけ『移行期』のものか」の議長を務めた。特使は、移行期の正義は2つの意味で移行期であるとした。ひとつは問題の時期から社会を移行させるという意味、また、もうひとつは、時間を要する正義という意味である。元検事総長で、元国家管理大臣の、Ana Pessoa Pinto大統領付上級顧問は、移行期の正義は刑事訴追にのみ焦点をあてるべきでないと述べた。正義は団結を妨害するのではなく、促進するべきである。女史は、インドネシアと東ティモールが人権侵害の加害者の責任を追及するのに直面してきた困難の歴史を振り返り、なぜ多くの異なる正義の形を議論しなければならないのか、疑問を投じた。International Center for Transitional Justice (ICTJ)の共同創設者Priscilla Hayner女史は、移行期の正義のためのツールが、各国で移行期の正義のという枠の内外で利用されていることを紹介した。問題のある過去に取り組むための方法としての移行期の正義については、「移行期」という言葉は不適切であるとした。移行期の正義は刑事訴追のみならず、制度改革や賠償の問題も含むので、「包括的正義」という用語の方が適している。CAVRは今までの類似の委員会の中で、そのプロセス、包括性、真摯な姿勢、深み、最終報告書の完成度などから、世界で最も成功した5つの委員会のうちのひとつである。委員会の後に何をするかということは、委員会の活動と同じくらい重要である。国連政務局アジア太平洋部門部長代理、梅津伸氏は、過去の国際法侵害が継続的な和平の妨げとなる場合に移行期の正義は不可欠であるという国連の立場を確認した。同氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)は比較的和平と和解に焦点をあてていると述べた。2006年の国連事務総長の東ティモールの正義と和解についての報告書においては、「実現可能な」アプローチが取られたが、これは政治的現実に直面しての妥協であった。在ボゴタのDejusticia(Center for Law, Justice and Society)共同創始者であるRodrigo Uprimmy教授は、刑事訴追に過度な焦点をあてるのは見直すべきであると述べた。被害者を中心にしたプロセスを経て、広義の正義と、適度な正義に基づく和平を追求する国それぞれの解決法があって良いのではないかと提起した。
最終討論会「平和構築と国家建設:国連と二国間の視点:東ティモールの場合」は、国連東ティモール常駐コーディネーターKnut Østby氏が議長を務めた。同氏は、人間の苦しみは人類共通の問題であり、アジア特有の価値という観念は問題になり得ると述べた。国連政務局上級顧問Tamrat Samuel氏は、国連が、当初関与を躊躇する姿勢から、1999年に中立性ではなく公平性の原則に基づき東ティモール住民投票を開催するまで、どう変化していったか紹介した。インドネシアとの厳しい交渉、許容可能な合意の作成、治安の悪化など、数々の困難にも関わらず、東ティモールの人々の力、国際法と国際社会の支援により、住民投票は成功した。この経験は、国連に、国際社会の支援の重要さ、民族自決権を支えることの難しさ、明確な共通の基盤を持つことの大切さとより良い計画の必要性を浮き彫りにした。元東ティモール国連事務総長代表の長谷川祐弘教授は、東ティモールの指導者たちが過去を背後に残し、個人の利益より国のアイデンティティと結束を優先し、人々に何が正しいかを教え、人権を含む普遍的価値を統合しながら西洋と東洋の価値をどちらも取り入れた考え方を達成したことを賞賛した。コロンビア大学国際紛争解決センターの東ティモールプログラムディレクターRebecca Engel女史は、独立後、東ティモールの社会経済的発展における問題が、紛争に関連する争いから次第に個人間の争いに変遷していったと発表した。女史は、機関を超えた共同のアプローチと、該当地域・時期の特有の状況の分析、その分析に基づくメカニズムと、市民社会の国家建設への参加が重要であると述べた。最後にTraavik大使がノルウェーが多国籍・二国間で東ティモールに行った支援について発表し、人権への取り組み、石油収入、宗教の重要性などを支援するものが含まれたと紹介した。(リポーター:キハラハント愛)