キハラハント愛の徒然日記

国連平和維持活動、国際人権法、国際人道法、法の支配、治安部門改革の分野で活動するキハラハント愛のブログです。

PhD、これまでとこれから

今回は、現在の私の主な「仕事」であり、「投資」である、
PhDの過程について、書いてみます。

1990年代の後半からずっと関わってきた、国連。
かなり軌道に乗り、自分が任される分野にもある程度の経歴と自信もできてきて、
これからもっともっと面白く、役にも立てる仕事ができるか、という時に国連を自ら離れるのは、
正直大変な不安もありました。
でも、私がこれまでに出会った多くの人たちの中で、
どうしても私の現在のPhDの指導者であるハンプソン教授ほど、
衝撃的で、いかにも公正で、自分の仕事に情熱とプライドを持ち、それでいて驕らず、
しかも大変ありがたいことに私を評価してくれる人は、本当に数少なかったと思います。
彼女と以前に仕事をさせてもらった際に、
まだまだ駆け出しの私と連名で出版するのに、
きちんと1文1文一緒に見てくれて、
ちゃんとできていれば評価もしてくれ、
できていなければ考えられないほどの課題を「できないことはないはず」と与えてくる、
その姿勢に非常に感激して、
「またこの人といつか仕事をしたい」と思っていたのです。

そうして、5年くらい密かに情熱の火を燃やし続け、
でもPhDの長い道のりに見合うだけの根性と継続力があるかどうか自信がなく、
やっとPhDを始めたのが1年半ほど前になります。

PhDの過程、ここまでを一言で言うと、「執念」でしょうか。
勉強机の前には、ハンプソン教授の指導の下、
「PhD論文は、氷山の一角にすぎない」ということばを貼りました。
知っていることを全部書こうなんて思うな、
でも知っていなければいけない、
そして、知っているということを示さなければいけない。
ふーむ。

PhD論文には、鍵となる問いがあるはずだ。
それを的確に見つけて、自然な流れでその鍵となる問いに答えるための問いを段階的に設定して、
それに答えていくことだ。
なーるほど。

PhDとは、ジムに行って腹筋を鍛えるように、
脳の筋肉を鍛えることだ。
ふむふむふむ。

私が指導するからには、PhDを取得できるぎりぎりなんて目指しませんよ。
与えられた時間内で素晴らしい論文を書かせます。
問題は出版できるかできないか、ではなく、いかに素晴らしいものを、一流の出版社から出せるか、です。
は、はーい。

そんなこんなで、今2年目。
今まで仕事では深く掘り下げられなかった問題を、深く深く掘り下げてみます。

社会と精神疾患を持つ人々との関係

年末年始に、 精神疾患を持つ人の社会復帰を助けるNPOに勤めている友人が イタリアに遊びに来て、
彼の 「イタリアの対応を見てみたい」という一言から、
私が友人の看護婦さんに
「どこへ行ったらそういう団体の人と会えるかしら。 視察とかできるかしら。」と送った一本のメール。
その看護婦さんが娘さんの友達のお姉さんにコンタクトを取って、 あれよ、あれよという間に、
ある精神疾患と闘う団体のディレクターさんとのミーティング、
彼らが共同で住んでいるグループホームの訪問、
そして彼らの働く作業所をいくつも訪問させてもらうことができました。

近くのラティアノという小さな町にある、チッタ・ソリダーレという団体です。
http://www.cittasolidalelatiano.it/index.php?option=com_content&task=view&id=3&Itemid=4

イタリアでは近年法律が変わってから、精神病棟というものを廃止し、
患者さんたちを社会にどんどん戻すという取り組みをしてきました。                
 多くの患者さんは、デイケアで 精神科医さんやカウンセラーさんと話をしたり、 色々な活動をしたりして、
夜は自分たちの家族のもとへ帰っていきます。
ラティアノに来て、グループホームで団体生活をしている人たちは、
重度の疾患で家族のもとには毎日帰らない人たち。
症状によって4段階に分かれていて、それもちゃんとひとつひとつステップを踏んで
次のホームに行くようになっています。
6人ずつ、普通の家(とっても立派!)に暮らしています。
家事などは皆で分担してやっています。

驚いたのは、活動の豊富さと、綿密な計画性。
患者さんが入ってきて、症状のアセスメントをする、 そのチェック事項が100以上。
ちゃんと細部にわたってチェックする項目の目的、
チェックの仕方などが説明されたマニュアルのようなものを見せてもらいました。
アセスメントは患者さんと一緒に行います。
それによって、まず3ヶ月の試験的活動。
日課が決められていて、 多岐にわたる運動、作業、音楽などを体験します。
その経過をみながら、精神科医さんと患者さん本人が、 それぞれの症状、得意分野、嗜好にあわせて、
する作業や活動を決めていくプログラム。
非常な充実ぶりです。

活動の内容もよくできています。
ダンス、歌、絵画など、創作的なもの。
お金の使い方、お皿の洗い方など、疾患によって忘れてしまったことを 思い出すプロセスとなる活動。
疾患によって隠れてしまった能力や自信を取り戻すためのステップだそうです。

そうして、それぞれ、社会からお金をもらって品物やサービスを提供する、 「仕事」についていきます。
この団体の下にあるのは、ガラス細工、ケータリング、チョコレートづくり、洗濯やさんなど。
そうやって少しずつ社会との関わりを「普通」にしていくようです。
ガラス細工とか、チョコレートとか、ケータリングも、 プロフェッショナルな仕事をしています。
                          
IMG_7534

(こちらの写真は、このチッタ・ソリダーレのガラス作業所でできたステンドグラス風の窓)

もちろん、
この重度の患者さん用のグループホームでも 皆を少しずつ社会に戻し、普通の家に戻すことを目的としてしているし、
精神病棟も原則無くなったわけなので、
帰る家族、受け入れてくれる家族がなくて困るケース、 どうしても治らないケースなど、あるそうです。

でも、こういうアプローチ、素晴らしいな、
それに、そのアプローチをこんなにちゃんと形にしたディレクター並びに スタッフの方々は素晴らしいな、
と感激してしまいました。

IMG_7533
(こちらは、精神疾患をもつということで受けるスティグマを表した龍です。
6月のお祭りでこれを着たホームの居住者たちが街を練り歩きます。)

そこで、宣言。 1.今度大きなパーティーをするときには、ここのケータリングを利用させてもらいます。
2.今度南イタリアでチャリティなどのイベントをするときは、ここのガラス細工なりクッキーやチョコレートを売るストールをつくります。

南イタリア、プーリアにお住まいの方々も、ぜひここのケータリングサービス、お使いください。
いただいたクッキーはとても美味しかったですよ。

この後、またご縁で今度はデイケアセンターを訪問させてもらいましたが、 それはまた次回!

2012年:静かな進歩の年

2012年、辰。

今年は、私にとっては静かな進歩の年になりそうです。

昨年後半は、PKOの警察についてのリサーチが、調べれば調べるほど、
勉強すれば勉強するほど面白くなってきて、
手を広げていろいろな分野について知りたくなってしまい、
広く浅く、あれもこれも、それとこれとの関係性も、あの可能性も、と、
少々欲張りになっていたようです。

12月、PhD候補者として認定するかの審査の際に、
手を広げずに、深く掘るように、
本を読む前に、考えるように、
どうしてその本を読まなければいけないか、
その本の内容が自分のリサーチのどの質問に対応するものか考えるように、
1週間に半日、本を読まずにリサーチの全体像とその週の成果との関連について考える時間をつくるように、
リサーチの全体像と、細かい法的な考察とを、ズームイン、ズームアウト、とスムーズにできるように練習する課程を指導教授に助言してもらい、
それから何だか少し前が開けたような、
何となくPhDというものが自分の思っていたよりももっと深く考える過程なんだとちょっと分かったような、
かなりポジティブな気分です。

この「何となく分かったような気がする」ものを
ひとつ深呼吸してから、書家が書を書くような集中力を持って静かに追求して、
動じずに、ひとつひとつつめて行きたいと思います。

今年もよろしくお願いします。

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